浦和地方裁判所熊谷支部 昭和48年(ワ)57号 判決 1974年8月22日
原告
大金アイ子
被告
吉田正志
ほか一名
主文
一 被告正志は原告に対し、金三、四一〇、〇一六円およびうち金三、二一〇、〇一六円に対する昭和四八年五月四日から完済にいたるまで、年五分の割合による金員を支払え。
二 被告正志に対するその余の請求を棄却する。
三 被告正三郎に対する請求を棄却する。
四 訴訟費用はこれを二分し、その一を被告正志の、他を原告の各負担とする。
事実
(当事者の求める裁判)
原告
被告らは各自原告に対し、金五、七七八、三〇六円およびうち金五、二五八、三〇六円に対する訴状送達の翌日である昭和四八年五月四日から完済にいたるまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とするとの判決、ならびに第一項につき仮執行の宣言。
被告ら
原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とするとの判決。
(請求原因)
一 原告の夫訴外大金充伺は、昭和四七年一月四日午前一時五〇分頃、普通乗用自動車群5む4266号(以下大金車という)を運転し、埼玉県東松山市本町二丁目八番二〇号地先の、黄色の点滅信号中であつた交差点を、熊谷市方面から坂戸町方面に向つて進行していた。
一方被告正志は、被告正三郎保有にかかる普通乗用自動車山形5に7419号(以下被告車という)を運転し、小川町方面から吉見町方面に向つて、赤色の点滅信号中であつた同交差点を進行していたところ、大金車の前部に被告車前部を激突させ、よつて、大金車に同乗していた原告に対し、頭部打僕、左上腕骨骨折、左橈骨神経不全麻痺、左膝部挫創の傷害を与えた。
二 右事故による原告の損害について、被告正志は民法第七〇九条により、被告正三郎は自賠法第三条により、それぞれこれを賠償する責任がある。
三 原告の損害は次のとおりである。
(一) 原告は昭和一三年八月一四日生の主婦で、事故当時三三年であり、夫である前記大金充伺は、訴外右津運送株式会社の自動車運転者で、夫婦間には長男豊および長女順子がいる。
原告は、昭和四七年一月四日から同月三〇日頃まで二六日間、東松山市医師会病院に入院し、同年二月一日頃から昭和四八年三月三日まで八王子市南多摩病院へ通院、その通院期間は三九五日で実日数は二一八日であるが、その後も引続いて通院加療中であり、後遺症が残ることは明白である。
(二) 付添料等
1 原告の右入院中、前記充伺の親戚である訴外井ノ川としみ(一八年)が勤務を休んで付添つたのであるが、その付添費用は一日金二、五〇〇円、合計金六五、〇〇〇円である。
2 前記充伺は、原告の本件受傷のため、一ケ月間前記勤務会社を休業し、この間長男豊、長女順子の世話をしていたのであるが、右休業損害は一ケ月金一四、〇〇〇円である。
3 前記南多摩病院への通院中、日常の家事はもとより自分のことさえできず、前記井ノ川よしみが付添人として、原告方において家事等に従事し、その付添期間は同年二月一日頃から同年四月末日まで九〇日間で、付添料は一日金二、五〇〇円、合計金二二五、〇〇〇円である。
4 昭和四七年五月一日から同年六月一五日までの四六日間は、前記充伺の実姉山田静子の子である訴外山田景子(二〇年)が朝晩家事に従事した、この費用は一日金一、五〇〇円、合計金六九、〇〇〇円である。
(三) 入院雑費
昭和四七年一月四日から同年一月三〇日までの入院中、一日金三〇〇円合計金七、八〇〇円の入院雑費を要した。
(四) 慰藉料
1 前記入院中のもの、およびその後同年六月一五日までの通院の分については、入院と同視すべきものであるから、一日金三、三〇〇円合計金五四一、二〇〇円。
2 同年六月一六日から昭和四八年三月五日までの通院の分については、一日金一、五〇〇円合計金三九一、五〇〇円を請求する。
(五) 逸失利益
1 原告は主婦であり、家政婦賃金に準じて相当額を請求するが、右賃金は一日金二、五〇〇円ないし、金二、八〇〇円であるところ、これを一日金二、〇〇〇円とし、そのうち生活費を一日金一、〇〇〇円とすると、昭和四七年一月四日から同年六月一五日までの一六四日間は金一六四、〇〇〇円である。
2 同年六月一六日から昭和四八年三月三日までの二六一日間は、労働能力喪失率を五割六分とすると、金一四六、一六〇円である。
3 原告は、後遺症として左肘関節の運動障害があり、最大伸長は一四〇°で、最大屈曲は五五°である、左橈骨神経損害による後遺症の労働能力喪失率は、自賠法施行令第二条にもとづく等級表七級の四に該当し、一〇〇分の五六である。
原告の就労可能年数は三〇年で、ホフマン式計算による係数は一八・〇二九であるから、一ケ月の生活費を差引いた所得を一ケ月金三〇、〇〇〇円とすると、金三、六三四、六四六円となる。
30,000×12×18.029×0.56=3,634,646
(六) 弁護士料
原告は、本件訴訟について代理人弁護士斎藤正義に対し、弁護士料として、一審判決言渡と同時に、請求金額の一割に相当する金五二〇、〇〇〇円を支払うことを約した。
四 そこで、原告は被告らに対し、各自金五、七七八、三〇六円および内金五、二五八、三〇六円に対する訴状送達の翌日である昭和四八年五月四日から完済にいたるまで、年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(被告らの答弁)
一 請求原因第一項中、被告正三郎が被告車を保有していたことは否認、原告の受傷内容は争う、その余の事実は認める。
二 同第二項中、被告正三郎の責任原因は争う、被告正志の損害賠償義務は認めるが、その額は争う。
三 同第三項は全部不知。
四 同第四項は争う。
(被告らの主張)
一 被告正三郎が被告車を保有していたことはない、すなわち、被告正志は昭和四五年六月頃被告車を買受け、自賠責保険の契約者となり、その住所地である埼玉県下において、自己のため運行の用に供していたものである。
被告正三郎は被告正志の実父であるが、正三郎において被告車の運行を支配し、その利益を自己に帰属させていた事実は全くないのであるから、被告らが親子であるという身分関係だけで、被告正三郎が被告車の保有者とされるいわれはない。
二 本件事故について原告側にも過失が存するので、原告の損害につき過失相殺がなされるべきである、すなわち、原告と訴外大金充伺は同居の夫婦で、原告は充伺の所有でその運転にかかる大金車に同乗していたところ、充伺には、本件交差点における信号が黄色の点滅信号であつたから、徐行したうえ、左右道路から同交差点に進入する車両の動静に注意し、その安全を確認すべき注意義務があるのに、これを怠り、慢然時速約四五粁で同交差点に進入したため、本件事故を惹起した過失がある。
三 原告は、昭和四九年四月五日本件事故により、自賠責保険にもとづき、訴外日産火災海上保険株式会社から金五二〇、〇〇〇円の支払を受けたので、原告の本訴請求額からこれを控除すべきものである。
(被告らの主張に対する原告の答弁)
原告が、昭和四九年四月五日本件事故により、自賠責保険金五二〇、〇〇〇円の支払を受けたことは認める。
(証拠関係)〔略〕
理由
(争いのない事実)
請求原因第一項中、被告正三郎が被告車を保有していたこと、および原告の受傷内容を除くその余の事実、ならびに同第二項中被告正志に損害賠償義務が存することは、当事者間に争いのないところである。
(事故の発生)
〔証拠略〕を綜合すれば、本件事故現場は、東松山市本町二丁目八番二〇号の市街地で、国道二五四号線(歩道を除く幅員九米)と、市道(幅員六・二〇米)の交差する信号機の設置された交差点であるところ。
被告正志は被告車を運転し、右市道を小川町方面から吉見町方面に向つて、時速約五〇粁で同交差点にさしかかつたが、赤色の点滅信号であつたから、一時停止し、左右の交通の安全を確認して通過しなければならない注意義務があるのにこれを怠り、一時停止も徐行もせず、前記速度で同交差点に進入しようとした過失により、交差点の手前にある横断歩道付近(甲第六号証の三、<2>の地点)において、訴外充伺運転の大金車が、右国道二五四号線を熊谷市方面から坂戸町方面に向つて、同交差点に進入してくるのを、左前方約九・五〇米(同号証)の地点に認め、急制動等の措置をとるいとまもなく、大金車の前部に自車の前部を衝突させ、大金車に同乗していた充伺の妻である原告に対し、頭部打撲、左上腕骨骨折、左橈骨神経損傷および左膝部挫創等の傷害を与えたことが認められる。
〔証拠略〕中右認定に反する部分は措信しない。
(被告らの責任原因)
被告正志には前記過失があるので、原告に対して、民法第七〇九条による損害賠償責任がある。
被告正三郎の責任については、被告ら各本人尋問の結果によれば、被告車は、被告正志において昭和四五年一〇月頃、訴外山形日産株式会社から代金三五万円で買受け、同被告の通勤用等として運行の用に供していたものであり、被告正三郎は、被告車を保有していた事実はなく、自賠法第三条の運行供用者に該当しないことが認められる。
従つて、被告正三郎の賠償責任はこれを認めることはできない。
(過失相殺)
〔証拠略〕によれば、原告と訴外充伺は同居の夫婦であるが、本件事故について、充伺にも次に認定する過失があることが認められ、右過失は原告の損害額算定について斟酌せられるべきものである。すなわち、訴外充伺は大金車を運転して本件交差点に進入するにあたり、黄色の点滅信号であつたから、徐行したうえ、左右道路の交通の安全を確認して、同交差点を通過しなければならない注意義務があるのに、これを怠り、時速約四五粁で徐行せずに同交差点に進入した過失がある、〔証拠略〕中この点に反する部分は措信しない。
その過失割合は、被告正志八〇%、訴外充伺二〇%と考えられる。
(損害について)
一 付添料等
〔証拠略〕を綜合すれば、原告は本件受傷により、付添料等(一)ないし(五)の損害を受けていることが認められる。
(一) 昭和四七年一月四日から同月三〇日頃までの二六日間、東松山市医師会病院へ入院し、訴外井ノ川としみの付添看病を受けたのであるが、右付添料は一日金二、〇〇〇円合計金五二、〇〇〇円である。
(二) 訴外充伺は、原告の受傷後一ケ月間勤務会社を休業し、長男豊および長女順子の世話をしていたのであるが、右休業による損害は一ケ月金一四、〇〇〇円である。
(三) 昭和四七年二月一日頃から昭和四八年三月三日まで、八王子市南多摩病院へ通院したが、右通院の日から同年四月末日まで九〇日間前記井ノ川としみが付添看病し、その付添料は一日金二、〇〇〇円合計金一八〇、〇〇〇円である。
(四) 訴外山田景子が、右通院中の昭和四七年五月一日から同年六月一五日まで四六日間、原告の家事に従事し、これによる損害は一日金一、五〇〇円合計金六九、〇〇〇円である。
(五) 前記入院中の雑費として、一日金三〇〇円合計金七、八〇〇円の損害を受けている。
二 慰藉料
原告は、前記入院ならびに通院中の慰藉料として、合計金九三二、七〇〇円を請求しているが、〔証拠略〕によつて認められる、原告の受傷の程度、入院および通院等の状況、ならびにその間受けた精神的苦痛その他諸般の事情を考慮し、原告の右慰藉料額は金八〇〇、〇〇〇円が相当であると認める。
(逸失利益)
一 原告は家庭の主婦として、家政婦賃金に準ずる賃金を請求し得るところ、その賃金は一日金二、〇〇〇円を相当とし、生活費を一日金一、〇〇〇円とみてこれを控除すると、昭和四七年一月四日から同年六月一五日までのうち、原告請求の一六四日分については、金一六四、〇〇〇円の損害を受けたことが認められる。
二 同年六月一六日から昭和四八年三月三日までの二六一日間については、労働能力喪失率を五割として計算すると金一三〇、五〇〇円の損害を受けたこととなる。
三 〔証拠略〕によれば、原告は、後遺症として左肘関節の運動障害があり、同関節の最大伸長は一四〇°位、最大屈曲は五五°位で、同関節部位には一〇糎位の金具を入れており、現在でも左親指に力が入らず、重い物も持てない状態であるが、原告の就労可能年数は三〇年で、ホフマン式計算による係数は一八・〇二九であるから、一ケ月の生活費を差引いた所得を一ケ月金三〇、〇〇〇円(年額金三六〇、〇〇〇円)とすると、金三、二四五、二二〇円となる。
360,000×18.029×0.5=3,245,220
四 以上の全損害合計金四、六六二、五二〇円に対して、前記過失割合による過失相殺をした金三、七三〇、〇一六円から、原告において受領したことを認める自賠責保険金五二〇、〇〇〇円を控除すると、金三、二一〇、〇一六円となる。
(弁護士料)
弁護士料については、その請求額全部を認むべきものではなく、訴訟における権利の伸張および防衛に必要な額をもつて、当該不法行為によつて生じた損害と解すべきものであるが、本件における右損害額は金二〇〇、〇〇〇円が相当であると認められ、前記金三、二一〇、〇一六円に右金二〇〇、〇〇〇円を加えた金三、四一〇、〇一六円が原告の損害金である。
(結論)
よつて、原告の本訴請求は、被告正志に対し右金三、四一〇、〇一六円およびうち金三、二一〇、〇一六円に対する訴状送達の翌日である昭和四八年五月四日から完済にいたるまで、年五分の割合による遅延損害金の支払を認める限度においてこれを相当として認容し、同被告に対するその余の請求を棄却することとする。
被告正三郎に対する請求については、前認定のとおり賠償責任を認めることができないので、これを棄却することとする。
よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条、第九三条を適用し、仮執行宣言の申立はこれを却下することとして、主文のとおり判決する。
(裁判官 高野明孝)